自然と体にやさしく暮らす/ずっと暮らす家だから心から「やすらぐ」場所であってほしい。パッシブデザインを取り入れた設計で、夏でも冬でも気持ちよく過ごせる住まいを叶えます。

パッシブデザイン

パッシブデザインとは?

エアコンなどの機械に頼らず、太陽光、熱、風といった「自然エネルギー」をそのまま利用し、快適な住まいづくりをしようとする設計思想・設計手法のことを言います。

自然の光や風を上手く活用し、冬は室内を暖かく、夏は涼しくすることで、暖冷房エネルギーの低減などにつながり光熱費の負担も小さくなります。パッシブデザインをしっかり考えることで、省エネでありながら快適で健康的な暮らしを実現することができます。

出典「Passive-Design Technical Forum」

パッシブデザインの5つの設計手法

パッシブデザインとは5つの設計手法を、適切に建物に組み込む設計技術です。様々なところでこれらのデザインは対立することがあるため、いかにうまくその対立を解消するかがパッシブデザインの最大のポイントになります。

01

断熱(冬のパッシブ)

断熱性能を高めることは建物全体の保温性能を向上させ、様々なメリットを与えてくれます。断熱性能が高まることで内外温度差が大きくなり、暖房室と非暖房室の温度差も小さくなります。

また快適性と密接な関係がある室内の床・壁・天井の表面温度も高く維持されることで実際の室温以上の快適性を感じることができます。

このメリットはとても大きく、逆に一定の断熱性能が確保されないときのデメリットがとても大きいため、建物に一定以上の断熱性能を組み込むことがパッシブデザインのベースをつくることになります。

建物全体の断熱性能の指標として「UA値(外皮平均熱貫流率)」があり、実際にその建物がどの程度の断熱性能を持っているかを知るには、こうした指標を見ることが確実です。

断熱材”吹付け硬質ウレタンフォーム”

02

日射熱利用暖房(冬のパッシブ)

その名の通り、冬に日射熱を室内に採り入れて暖房に使うという設計技術です。
このときに重要になるのが、日射熱を取り入れる「集熱」、入った日射熱を逃がさないための「断熱」、入った日射熱を蓄えておく「蓄熱」の3つのデザインをしっかり考えることです。
この3つが高いレベルで実現できれば、快適性と省エネルギー性が極めて高い建物になります。

ただし、地域によっては日射熱利用暖房があまり効果的ではない場合や、敷地の南側に建物があると冬の日射が遮られて十分な集熱ができない場合があるので、事前の検討を行うことが重要です。

南側の窓からしっかり集熱する

集熱のための日照シミュレーションによる立地確認

03

日射遮蔽(夏のパッシブ)

夏の暑い日射を室内に入れないための日射遮蔽は、夏期における快適と省エネを実現させるための基本中の基本です。
最近になって断熱性能はかなり注目されるようになってきましたが、日射遮蔽性能についてはまだまだ理解や工夫が足らないように思います。

とくに「断熱性能(保温性能)を高めていくと、夏の室内が少しずつ暑くなっていく」という現象が起きるのですが、この問題を解消するには日射遮蔽のデザインをしっかり考えることが何より重要です。

日射遮蔽のための庇

窓まわりの工夫で窓から入る日射を防ぐ

04

通風(夏のパッシブ)

自然の風がうまく入ることで住む人が心地よさを感じ、エアコンをつける時間が減ることにもつながります。

レベルの高い通風のデザインを進めていくときのキーワードとして挙げられるのが「卓越風向」「立体通風」「高窓」「ウィンドキャッチャー」です。建物の中での風の流れを予測しながら窓の配置や大きさを考えることを基本に、こうしたキーワードを建物に組み込むことがポイントになります。

上下に風を通す立体通風

建物上部に籠もった熱を排熱する高窓

05

昼光利用(明るさのパッシブ)

昼光利用のデザインが目指すのは、昼間に人工照明を点けなくても過ごせるようにすることであり、また自然光による快適な明るさを実現させることです。

昼光利用は大きく”採光”と“導光”に分類されます。採光は「昼間に長く過ごす部屋には2面以上に窓を設ける」「それ以外の部屋には1面以上に窓を設ける」といったように、うまく窓を設けて自然の光を採り入れるというものです。

導光は文字通り”光を導く”という設計の技です。吹抜けや欄間、天窓などを設計に取り入れることで暗くなりやすい部屋を少しでも明るくすることができます。

高窓から光を落とす

吹き抜けから光を落とす

パッシブデザイン つくり手からのメッセージ

中野 弘嗣 氏

水の葉設計社 代表
一般社団法人Forward to 1985 energy life 理事

<受賞歴>自立循環型住宅研究会アワード2017 最優秀賞受賞
<資格等>一級建築士・暮らし省エネマイスター・環境省うちエコ診断士・気密測定技能士

パッシブデザインの5つの設計手法

住宅を設計するとき、まずはじめに敷地を見に行きます。

敷地境界、法的な制限、給排水の引込や電柱の位置など現実的な側面から調べることもたくさんありますが、一方で、その敷地にはどのようなポテンシャルがあるかをきちんと把握することも大事にしています。例えば、その場所の日当たりや風通しなど自然のエネルギーがどれくらい活用できそうか、その場所からどんな景色が見えるか、逆に周りからの視線がどれくらい気になりそうかなどを把握した上で設計を始めます。

パッシブデザインという設計手法は、その場所に存在する太陽や風など自然のエネルギーを住宅の中に取り込んだり、時には余計なエネルギーを取り込まないように遮ったりしながらコントロールし、快適かつ省エネに暮らすための方法です。「太陽の日差しを受けて暖かい家」や「風通しが良く涼しい家」など、パッシブデザインは情緒的な言葉で語られることも多くありますが、実際に効果的なパッシブデザインを実現するためには数値で定量的に物理現象を把握することが必要になります。シミュレーションや計算を繰り返すような地道な作業の中で、その建物で起こる物理的な現象を想像しながら、どうすれば自然エネルギーを上手に活用できるかを考えながら、暖冷房計画に落とし込んでいきます。

同時に、暮らし方に合った提案をすることも重要と考えています。大きなエネルギーを持つ太陽の位置は時々刻々と変わるので、それにどのように合わせていくか。日中に在宅が多い暮らし方と、共働きで日中は不在が多い暮らし方だと、対応の方法も異なります。敷地の環境×暮らし方の組み合わせで答えが千差万別な点は、パッシブデザインの設計の中で難しいところでもあり、楽しい側面でもあります。

パッシブデザインの目的は『小さなエネルギーで快適に暮らせる家』にすることです。小さなエネルギーで暮らせる家は、光熱費を抑えられるという直接的なメリットもありますし、社会的な課題である脱炭素に自然と向かっていける家でもあります。このような「パッシブデザイン」の考え方に共感して頂ける方と一緒に、楽しく家づくりをしたいと思っています。